自然や文化を尊重する

自然や文化に対する考え方

豊かな自然やこの地に根ざす文化は、私たちにとってとても重要な資源です。ガイドは、自然や文化の本質を捉え、そしてそれを尊重し守りながら多くの人々にその魅力を伝えていく必要があります。

自然や文化の捉え方としてまず大切なことは、文化はもちろんのこと自然環境も常に変化し続けていることを知ることです。例えば森について見てみると、一つの森は気候や地形が変わらなければいつまでも変化しないように見えますがそうではありません。日当たりのよい場所のシラカバ林も林の中は日当たりが悪く湿気も多くなり、そうすると次第に針葉樹林へと変わっていきます。もちろん山崩れや冷夏などの影響で森の様子が変わることもあります。

一方で、近年の二酸化炭素量の増加などの変化は人工的な影響によるものと考えられます。この一例のように、目の前に見えるものだけではなく、大きな視点で正確に自然を捉えることが必要です。もうひとつ自然や文化を理解するために大切なことは、感覚的にアプローチすることです。自然の風景から受ける感情、アートや歴史的な建物から受ける印象を、全身で享受するような豊かな感受性は非常に大切です。

持続可能な利用

自然環境は先にあげた二酸化炭素の例のように人の影響で大きな変化が起こります。ガイドは、何が自然の変化で、何が人為的な影響による変化なのかを把握し、そして、どのようにしたら良好な環境を持続的に利用することができるのかを常に考えることが求められます。

その実践としては、日頃の活動の中で、自然に対して可能な限り影響を与えないようにすることです。人と自然のかかわりを考え、どのような行為がどの程度の影響を与えるのかを知ること、そして、その影響を少なくするために行動することが必要です。こうした影響を与えるのは、ミスユース(誤った利用)、オーバーユース(過度のの利用)の場合が考えられます。例えば、行為と自然への影響としては次のようなものが考えられます。

  • 登山、自然観察:誤った歩き方による植生の損傷、誤った観察方法による繁殖
  • 生息環境のかく乱など・カヌー、ラフティング:イトウなど水辺に依存する野生生物への影響、上陸場所の植生の損傷など
  • その他共通のもの:動植物の生息場所への侵入による繁殖
  • 生息環境のかく乱、ゴミの不適切な処理による影響、し尿の不適切な処理による影響など

こうしたミスユース、オーバーユースを防ぐことはガイドとしての重要な役割です。

トイレ問題

トイレが整備されていない登山道などでは、利用者が増えるとし尿処理が問題となります。特に羊蹄山のように標高の高い場所では自然の分解作用が不十分で許容範囲を超えたし尿は分解されずに残ってしまいます。このし尿が湧水汚染、高山植物の生息環境悪化などに影響を与えることとなります。近年では携帯トイレが進歩し、アウトドアショップなどでも販売されています。ゴミの持ち帰りは当然のこと、トイレの整備されていない場所では、自分の出したものも自分で持ち帰るように心掛けましょう。

リスクマネジメント

自然は私たちに癒(いやし)や喜びを与えてくれる一方で、猛威となって人の命を奪うこともあります。ガイドを行う者には、その危険を予め予見し事故を未然に防ぐことが求められています。ここでは、危険を回避するためのリスクマネジメントについて解説します。

まずは事故が起こる背景を把握しなければなりません。

労働災害を統計的に研究したハインリッヒの法則によると、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の「ヒヤリ・ハット」の異常が存在するといいます。さらに、その背景には幾千件もの「不安全行動」と「不安全状態」が存在しており、そのうち予防可能であるものは「労働災害全体の98%を占める」こと、「不安全行動は不安全状態の約9倍の頻度で出現している」ことが見いだされました。

ここで1つの重大事故を頂点として三角形を考えて見ましょう。その下にはピラミッド上に軽微な事故、ヒヤリ・ハットなどが重なっています。ハインリッヒの法則に基づく事故防止では、この三角形の下層部分を小さく少なくできれば、つまり、「ヒヤリ・ハット」を少なくできれば、頂点にある重大事故の件数も減らすことができるという考え方です。これを私たちの自然の中での行動にあてはめてみましょう。日頃の活動の中で、ヒヤリ、ハットした経験はありませんか?その背景に安全への配慮が足りなかったことはありませんか?小さな要因をひとつずつ改善することが重大事故を未然に防ぐ上で一番大切なことです。

次に重要なことは、行動中に発生するであろう失敗や危険状態を細かく思い描くことです。事前に考えうる危険とそれにどう対応するのかをシミュレーションしておきましょう。万が一事故が起きてしまった場合に備えて、対処できる装備を整え、救急法などを身に付けることも忘れてはいけません。なぜ、そのようなことをするのかというと、その準備があるか否かによって実際に危険に遭遇したときの対処に差が出るからです。危険は目に見えなくても常に身近にあることを忘れてはいけません。

ニセコローカルルール

ニセコでは、魅力的なパウダースノーと同時に、常に雪崩の危険が潜んでいます。そこで、雪崩による事故を防ぐためにニセコローカルルールが定められています。これはまさに、先に書いたところの危険状態を減らすことで事故発生を未然に防ごうという取組みです。

バックカントリーを何の基準もなく皆が勝手に滑るという状態は、雪崩の危険を判断できない多くの人がそこを滑るということであり、こうした状況の改善がなければ事故の可能性を減らすことはできません。そこで、ゲレンデからバックカントリーへアプローチできる場所をいくつかのゲートに制限し、雪崩の可能性が高いときにはゲートを閉鎖しバックカントリーへ出ることを禁止するという方法で、事故につながる可能性を大幅に減らしています。新谷暁生氏をはじめとするニセコ雪崩調査所、各スキー場のパトロールが連携して取り組んでいるニセコローカルルールと雪崩情報は、各スキー場に掲示されています。滑り出す前に必ず内容を理解し、ゲートにいるパトロール隊員の指示に従ってください。

ルールとエチケット

自然に悪影響を与えず、人々を安全に、感謝の心をもってもてなす。そのためには皆がルールとエチケットを守ることが大切です。ゴミは持ち帰る、挨拶をするなどの基本的なことはガイドに限らず、羊蹄山麓に暮らす全ての方に実践していただきたいエチケットです。さらに、この地域にかかわる人々が集まってのゴミ拾いを定期的に行うなどの取組みが、今以上に広がることが期待されます。

日時: 2007年10月25日 09:24